最長の糸 〔第190回〕

仏が運んだ糸は、1,448年かけてバブルの狂騒に届いた

起点: 仏教公伝(538) ・ 結末: バブル経済(1986) ・ 経路 1,722,392,224 通り
仏が運んだ糸は、1,448年かけてバブルの狂騒に届いた の挿絵(マカミ)

1980年代後半のバブル経済——土地と株が際限なく膨らんだあの狂騒は、金余りが生んだ純然たる現代の産物だ、と誰もが思う。ところが因果絵巻でその源流を遡ると、糸は西暦538年、百済から仏がもたらされた仏教公伝にまで伸びていた。両端の年代差は、実に1,448年である。

仏教公伝からバブル経済へ至る道は、もちろん一本ではない。網の目をすべて数え上げると17億2,239万2,224通り。眩暈のする数の迂回路が、飛鳥の仏像献上と、狂乱の地価とを結んでいる。

最短の一本を、24手で駆け抜けよう。仏教の受容をめぐり蘇我氏が物部氏を滅ぼし(587)、推古朝、遣隋使、遣唐使へ。唐渡りの医書が『医心方』から曲直瀬道三、山脇東洋の腑分け、『解体新書』を生み、実証の精神が国学と蘭学を刺激する。尊王攘夷から下関戦争、薩長同盟、王政復古、戊辰戦争——維新の激流。版籍奉還・廃藩置県・地租改正が寄生地主制を、農地改革がその解体を招く。自作農の購買力が高度成長を、石油危機が省エネ技術を促し、燃費のよい日本車と半導体が対米輸出を急増させる。深刻化した日米貿易摩擦の是正としてプラザ合意が結ばれ、急激な円高を恐れた日銀の超低金利が、行き場を失った緩和マネーを土地と株へ流し込んだ。糸は一度も切れない。

この道の途中では、糸が医学と学問の畑を延々と迂回する。『医心方』から腑分け、『解体新書』、国学と蘭学へ——バブルの宴とは無縁の系譜を、因果は平然と貫いていく。もし物部氏が崇仏論争に勝っていたら、仏教の定着は遅れ、この将棋倒しはまるごと別の順に倒れていたはずだ。

数字で裏を取ろう。最短は24手、最長の迂回路は97手。その千四百四十八年の中に、17億本を超える因果の糸が張り巡らされている。

海を渡ってきた一体の仏が、千四百年後のバブルの宴を準備していた——馬鹿げて聞こえる。だが糸は確かに繋がっている。ただ、それを唯一の筋と思ってはいけない。歴史は一本道ではなく、17億本の網である。教科書がたどる「プラザ合意から金融緩和へ」の一筋は、その網の、たった一本にすぎない。

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