最長の糸 〔第189回〕

バブル崩壊への道は、仏教公伝から17億本枝分かれしていた

起点: 仏教公伝(538) ・ 結末: バブル崩壊(1991) ・ 経路 1,722,392,224 通り
バブル崩壊への道は、仏教公伝から17億本枝分かれしていた の挿絵(マカミ)

1991年のバブル崩壊は、地価と株価が同時に暴落した平成の惨事であり、まぎれもない現代の経済現象だ——そう思うだろう。だが因果絵巻でその源流を遡ると、糸は思いがけず遠く、西暦538年の仏教公伝にまで伸びていた。

百済からの仏像・経典献上からバブル崩壊へ至る道は、一本ではない。網の目をすべて数えると17億2,239万2,224通り。気の遠くなる数の迂回路が、飛鳥の崇仏論争と、崩れ落ちる地価とを結んでいる。

最短の一本を、25手で駆け抜けよう。仏教の受容をめぐり蘇我氏が物部氏を滅ぼし(587)、推古朝、遣隋使、遣唐使へ。唐から持ち帰った医書が『医心方』に結び、曲直瀬道三、山脇東洋の腑分け、『解体新書』へ。実証の精神が国学と蘭学を刺激し、尊王攘夷から下関戦争、薩長同盟、王政復古、戊辰戦争——維新の激流へ。版籍奉還、廃藩置県、地租改正が寄生地主制を生み、農地改革がそれを解体する。自作農の購買力が高度成長を、石油危機が省エネ技術を促し、日本車と半導体の輸出が日米貿易摩擦を招く。その是正のプラザ合意が急激な円高を生み、緩和マネーがバブル経済へ、そして金融引き締めがバブル崩壊へ雪崩れ込んだ。糸は一度も切れない。

この道の途中には、地価とは縁のない回り道が長く続く。医書、腑分け、蘭学、そして維新の政変——バブルとは何の関わりもなさそうな出来事を、糸は一つずつ数珠つなぎにしていく。もし物部氏が崇仏論争に勝っていたら、仏教の定着はずっと遅れ、その先の千四百年はまるごと別の時刻表で回っていたはずだ。

数字で裏を取ろう。最短は25手、最長の迂回路は98手。両端の年代差は1,453年。その中に、17億本を超える因果の糸が張り巡らされている。

一体の仏像が、千四百年後の地価暴落を準備していた——と言えば大げさだろう。だが糸は確かに繋がっている。ただ、それを唯一の道と思ってはいけない。歴史は一本道ではなく、17億本の網である。私たちがたどる「金融政策の失敗」という一筋は、その膨大な網の、ただ一本にすぎない。

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