稲作が消費税にたどり着くまで、最短でも29手かかる

紀元前500年、水稲耕作の伝来。まだ支配も身分もないこの島に、やがて税という制度が芽吹くとは、田を拓いた人々は思いもしなかっただろう。だが因果絵巻をたどると、その最初の一枚の水田から1989年の消費税まで、糸は一度も切れずに続いている。
道筋はこうだ。米は貯えられる。倉を握る家に富が集まって身分が分かれ、富と用水の争いがクニを生む。首長は後漢へ朝貢し金印を受け、権威を借りる外交が卑弥呼を経てヤマト政権へ。渡来人が漢字を運び、仏教が公伝し、蘇我氏が権力を握って推古朝が遣隋使を出す。遣唐使、『医心方』、曲直瀬道三、山脇東洋、『解体新書』、蘭学と国学、尊王攘夷、下関戦争、薩長同盟、維新、廃藩置県。ここで税の糸が太る。地租改正が地価基準の金納を敷き、寄生地主制を生み、農地改革がそれを解体し、自作農の購買力が高度経済成長を支える。伸びた税収が国民皆保険・皆年金を実現し、その給付費が高齢化で膨らみ、賄いきれなくなった政府が消費税へ踏み切った。一枚の水田から消費税まで、最短29手。
ここで数字が目まいを起こす。この29手すら、無数の道のうち最も近い一本にすぎない。水稲耕作から消費税へ至る経路は、絵巻の中に4,931,584,224通り——49億本を超える。最長の一本は103手を要し、両端は2,489年を隔てる。同じ「田から税へ」を、49億通りの物語が結んでいる。面白いのは、最短でも29手という遠さだ。この二点は絵巻の中でとりわけ離れており、どんな近道を選んでも三十近い出来事を踏まねば渡れない。それでいて渡り方は49億通り。遠くて、しかも道は無数にある。
皮肉なのは、レジで一円の消費税を払う私たちの誰も、その一円が2,489年前の水田につながっているとは思わないことだ。因果はいつも短く語られる。「高齢化と財政難で」と一言で。だが本当は長い。稲を貯えた最初の一手から数えれば、道のりは29手、時にして2,489年に及ぶ。歴史は一本道ではなく、49億本の網である。 稲一粒の下に、消費税へ至る49億マイナス1本の道が、たしかに眠っている。
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