最長の糸 〔第182回〕

消費税は、2,191年さかのぼると漢帝国の役所に行き着く

起点: 漢帝国の成立(-202) ・ 結末: 消費税の導入(1989) ・ 経路 8,370,756,576 通り
消費税は、2,191年さかのぼると漢帝国の役所に行き着く の挿絵(マカミ)

1989年4月、消費税が導入された。少子高齢化と財政赤字が生んだ平成の申し子——そう説明される。だがその遠い祖先を因果絵巻で遡ると、平成でも霞が関でもなく、紀元前202年、漢帝国の役所に行き着く。

筋はこうだ。漢が築いた巨大な官僚機構がやがて後漢を倒し、三国分裂を経て隋が中国を統一する。整った律令国家という手本を前に、倭は遣隋使を、続いて遣唐使を送る。使節が持ち帰った医書が『医心方』となり、医学の糸は曲直瀬道三、山脇東洋、『解体新書』へと伸び、蘭学と国学が尊王攘夷を焚きつける。下関戦争から薩長同盟、王政復古、戊辰戦争へ。維新政府は版籍奉還・廃藩置県・地租改正で全国の土地と税を握った。ここで税の糸が太くなる。地価に応じた金納の地租改正が寄生地主制を生み、戦後の農地改革でそれが解体され、自作農の購買力が高度経済成長を支える。成長で膨らんだ税収が国民皆保険・皆年金を可能にし——その手厚い網が高齢化とともに給付費を膨張させ、所得税だけでは賄えなくなった政府が、広く薄く負担を求める消費税へ踏み切った。漢の官僚制から消費税まで、最短22手。

数字が目まいを誘う。この一本道は無数の道の一本にすぎない。漢帝国から消費税へ至る因果の経路は、絵巻の中に8,370,756,576通り——83億本を超える。最も遠回りな道は102手を要し、両端は2,191年を隔てる。同じ「税から税へ」を、83億通りの物語が結んでいる。漢の税務も、明治の地租も、平成の消費税も、突き詰めれば「国家がどうやって民から取り立てるか」という同じ問いの答えだ。その問いは2,191年ずっと解かれ続け、83億通りの解答用紙を書き溜めてきた。

皮肉なのは、増税を語る国会も新聞も、いつもたった一本の因果しか引かないことだ。「高齢化だから消費税」と。だが起点を伸ばせば、道は帝国の役所まで続く。因果を短く切り取るほど、税は突然降ってきた災難のように見える。長く伸ばせば、それが人類の統治そのものと同い年だと分かる。歴史は一本道ではなく、83億本の網である。 私たちが税を納めるたび、選ばれなかった83億マイナス1本の道が、そっと震えている。

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