糸の結び目 〔第166回〕

民主党を勝たせたのは、民主党ではない。三つの不況だ

主役: 民主党への政権交代(2009年)
民主党を勝たせたのは、民主党ではない。三つの不況だ の挿絵(マカミ)

2009年、政権が変わった。総選挙で民主党が圧勝し、鳩山由紀夫内閣が生まれる。自民から民主へ——戦後2度目の本格的政権交代である。「民主党への期待」が生んだ勝利、と当時は語られた。だが、この地滑りを起こしたのは民主党の魅力ではない。三本の不況の記憶が、同じ投票箱で結ばれた結果だった。

一本目、世界金融の糸。リーマン・ショック(2008)である。世界金融危機で輸出が急減し、派遣切りが街にあふれた。目の前で崩れる暮らしが、時の自民党政権への不満に火をつけた。投票日の一年前に、勝敗の大枠は世界市場で決まっていた。

二本目、失われた時間の糸。就職氷河期と失われた10年(1998)である。90年代末以来、若者の雇用不安と格差は静かに積もり続けた。この十年分の澱が、政権批判の底流をなす。リーマンは引き金を引いたにすぎず、火薬はとうに詰まっていた。

三本目、改革の副作用の糸。小泉構造改革(2001)である。郵政民営化や規制緩和が生んだ格差の拡大、地方の疲弊。改革の熱狂が冷めた後、その副作用への反発が、小泉退陣後の自民党政権への逆風となった。かつての自民の栄光が、そのまま自民への逆風に変わっていた。

結び目は2009年8月。世界の危機、積もった時間、改革の副作用——発端の異なる三本の糸が一枚の投票用紙で結ばれ、戦後2度目の政権交代が起きる。 有権者は民主党を選んだというより、三本すべてが指す「今のままは嫌だ」に投じたのだ。

だが結び目からほどけた糸は、皮肉な方向へ伸びた。民主党政権は普天間基地移設問題などで迷走し、期待された政治主導は実らない。三年後、失望の反動が第二次安倍政権とアベノミクス(2012)を呼び、自民は長期政権へ返り咲く。「交代」を求めた三本の糸が、結局は長い一党優位を呼び戻した。

歴史の大事件とは、別々の場所で始まった糸が一点で出会う、その結び目のことである。そして結び目は、しばしば結んだ者の願いと逆へほどける。

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