もしも百景 〔第79回〕

JRは、中東の砂漠から生まれた

起点: イスラエル建国(1948年) ・ 結末: 国鉄分割民営化(1987年) ・ 消滅 4
JRは、中東の砂漠から生まれた の挿絵(マカミ)

1987年、国鉄分割民営化。累積赤字で立ち行かなくなった日本国有鉄道が、地域別に分割され、JR各社として再出発した。国内の行政改革の象徴——そう記憶されている。だが、そのJR誕生の引き金を四手さかのぼると、日本から遠く離れた中東の砂漠に行き着く。

1948年の、イスラエル建国である。

国連の分割決議を機に建国が宣言され、領土と難民の問題が未解決のまま燻り続けた。その火種が、1973年、占領地の奪還を狙うエジプト・シリアの奇襲を呼び、第四次中東戦争となる。この戦争でアラブの産油国が、イスラエル支援国への石油の輸出制限と価格引き上げに踏み切った。原油価格が急騰——石油危機である(1973)。

そこから先は日本の話だ。石油危機で高度成長が終わる→税収の伸びが鈍る一方、赤字国債は累増→増税なき財政再建を掲げ、土光敏夫を会長とする第二次臨時行政調査会が発足(1981)→臨調は三公社の民営化を答申の柱に据える。 その答申の本丸として、累積赤字の膨れ上がった国鉄が分割・民営化された(1987)。四手、三十九年。中東の建国から、日本の鉄道の看板が架け替わるまで、因果は一本につながる。

データで裏を取ろう。因果絵巻から「イスラエル建国」を抜くと、消える出来事はわずか4件。第四次中東戦争、石油危機、第二臨調と行政改革、そして国鉄分割民営化——この四つが、きれいに一列で姿を消す。揺らぐ出来事は39件に及ぶ。

もしイスラエルが建国されなかったら。中東戦争も、それが引き起こした石油危機も起こらず、増税なき財政再建を叫ぶ臨調も生まれず、国鉄が分割される筋書きそのものが立ち上がらなかった。あなたが今日乗ったJRの「J」は、遠く中東の砂漠を出発点に持っているのかもしれない。

改札を抜けるとき、その電車が中東戦争の子孫だと思う人はいない。だが三十九年の因果の糸をたどれば、JRという看板は、パレスチナの砂に一本の根を下ろしている。歴史の血筋は、砂漠と線路を、平然と親子でつなぐ。

▶ 再現: https://inga-emaki.bucket-co.workers.dev/inga-emaki.html#if=isuraeru